働き方改革の「2、賃金引き上げと労働生産性向上」の賃上げ政策と背景、関連する助成金について話をします。

日本では、労働者の生活の安定や労働力の質的向上、事業の競争の確保に資することなどを目的に最低賃金制度を設けています。最低賃金制度は、国が法的強制力をもって賃金の最低額を定め、使用者はその金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないことになっています。

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金(産業別最低賃金)の2種類がありますが、地域別最低賃金は特定最低賃金よりも低く、最低守らなければならないボーダーラインです。地域別最低賃金を守らなかった場合は、不払いに係る最低賃金法の罰則(50万円の罰金)があり、最低賃金未満の額を定める契約は部分無効になります。

地域別最低賃金は、毎年、公労使三者からなる中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣の諮問を受け、その年の改定額の目安の答申を行います。この目安を参考に、最終的には都道府県労働局長が改正決定を行います。つまり、地域別最低賃金は、中央が目安をつくっているので中央の影響、特に「公=政府」の影響を強く受けることになります。

第1次安倍政権以来、民主党政権、第二次安倍政権、岸田政権に至るまで、賃金水準の底上げを図る方針が続いています。岸田首相は、今年3月の「公労使」の中央最低賃金の全国加重平均を2022年の961円から、2023年に1,000円に引き上げる目標を示し、非正規雇用も含めた幅広い賃上げを訴えました。

今年は1,000円を達成することを含め最低賃金審議会で明確な根拠のもと、しっかり議論していただきたい。」と述べました。最低賃金の前年の上げ幅は2022年の過去最大の31円でした。2023年に1,000円を達成するということは、40円近く最低賃金を引き上げるということです。また、このような最低賃金を引き上げるためにはリスキング(学び直し)や円滑な労働移動といった労働市場改革で「構造的な賃金引上げを目指す。」と言明しました。

最低賃金の引き上げの背景には、物価の高騰が大きいですが、日本の最低賃金が韓国に追い抜かれアジアNO2になってしまったことも影響しています。首相の話から助成金に関しては3点言えることがあります。

1つ目は、業務改善助成金です。10/1前に、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上の引上げをした中小企業には、生産性向上のための設備投資などに助成金が支給されます。引上げ対象はアルバイトでも良いです。生産性向上はベルトコンベア導入、POSレジ導入などの他、人材育成・教育訓練経費、経営コンサルティング経費も助成対象になります。助成額は引上げ1人に対し最低60万円、1事業所最大600万円です。

2つ目は、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリングコースの新設です。新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、事業主が雇用する労働者に対して新たな分野で必要となる知識および技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。労働移動・学び直しに対応した助成金です。

3つ目は、事業再構築助成金の新設です。新型コロナウィルス感染症の影響で事業活動の一次的な縮小を余儀なくされた事業主が、新たな事業への進出(労働移動)、新分野展開などの事業再構築を行うため、当該事業再構築に必要な新たな人材の受入れを支援するものです。中小企業庁の事業再構築補助金の採択を受けていることが条件ですが、支給額は年間で280万円/1人、1事業主当たり最大5人までが対象ですので、最大1,400万円です。

政府が力を入れているのは業務改善助成金です。10月1日にはどうせ最低賃金は引き上げられるのですから、賃金引き上げを事業のピンチと考えるのではなく、生産性向上のためのチャンスと考えてみてはどうでしょうか?