雇用保険・社会保険に入っているけれど、助成金申請ができないことはあります。助成金申請できない次の4つの事例は、①労働法違反、②会社都合の退職、③申請期限切れ、虚偽申請です。

労働法違反については、未払い残業代があるとか、最低賃金割れとか労働法に違反していると助成金は支給されません。ほとんどの助成金申請には、必ず提出する書類に「支給要件確認申立書」というものがあります。この中の全ての要件を満たして、✓マークが入っていないとその時点で助成金は申請できないことになります。

支給要件確認申立書の中には、助成金申請について不正受給をしたことがないか、不支給決定日または支給取消日から相当何年が経っているか、不正に関与した役員はいないか、過去に労働保険料の滞納はないか、過去1年間に労働関係法令違反はないか、反社会的勢力との関係を持っていないかなどについて、無しのチェックマークがつけばOKです。

会社都合の退職については、会社都合の退職があると、支給されない助成金があります。例えば、キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金です。

申請期限切れについては、助成金により支給申請の期限がありますますので注意が必要です。期限の日を1日でも過ぎると、助成金は申請できません。このミスは、事業主が自分で申請する場合に多い事例です

虚偽申請については、提出する書類を改ざんしたり、実際と異なる報告をして、後日、虚偽申請が判明することは、当然、許されません。

この中で、最も気をつけなければならないのは、雇用関係助成金の不正受給です。過去5年以内に偽りその他の不正の行為により、雇用調整助成金その他の給付金の支給を受けた事業主または団体に対して助成金は支給されません。またそのような不正を行った役員などが、別の事業主・団体の役員である場合も支給されません。同様に、その代理人(社会保険労務士など)や訓練機関が偽りの届出、報告、証明等をした場合も同様に支給されません。

仮に不正の行為で助成金の支給を受けた場合、都道府県労働局長は、上記の者に違約金に相当するものとして不正受給額の20%の返還命令を出すことができます。その場合、不正に関与した社会保険労務士、代理人または訓練実施者を連帯債務者として設定し、返還請求が行われます。事業主や関与した上記の者の氏名も公表されます。

コロナ禍での雇用調整助成金の不正受給が新聞を賑わしましたが、不正受給の総額は256億円で回収は173億円止まりとのことです。社会保険労務士も関与していた人が逮捕され同業として恥ずかしい限りです。社会保険労務士の場合は、不正に関与して指示し、相談に応じただけでも、3年以下の懲役または200万円以下の罰金です。当然、懲戒処分の対象となり、1年以内の業務停止、罪が重い場合は社会保険労務士の資格を失う失格処分になります。

9割の社会保険労務士が助成金の申請を積極的に提案しないのは、上記のことが理由の1つです。考え違いをしてはいけないのは、不正をするから処分されるのであって、不正をしなければいいのです。また中国に「瓜田に靴を納れず、李下に冠を正さず」ということわざがあります。ウリの畑の中で靴を履き直すとウリを盗むと疑われる。スモモの木の下で冠を被り直せば、スモモを盗むと疑われます。人に疑われるようなことはしないようにしましょう。事業主の皆さんも正々堂々と、助成金を正しい手続きで申請して、正しく受給していきましょう