助成金を知ることは、現在の労働市場が抱えている課題とそれに対する施策である「働き方改革」を知ることになります。ここからは、「働き方改革」の政策と背景と、具体的な助成金について知識として話をさせていただきます。まず、「1.同一労働、同一賃金など非正規雇用の処遇改善」の非正規雇用処遇改善政策についてです。

非正規労働者とは、正規社員以外の労働者です。2021年における雇用者5,973万人のうち、正規雇用が3,565万人に対して、非正規雇用が2,064万人と4割を占めています。1984年に604万人だった非正規雇用は、3倍強と大幅に増加しています。

非正規雇用のうち、有期契約労働者(パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、嘱託社員)が1,402万人で約7割を占めています。雇用者の4人に1人は有期契約労働者です。また、正規雇用の仕事に就きたかったけれど就けなかった「不本意非正規雇用」は非正規労働者の11%です。

非正規雇用の問題は、賃金格差が大きいのが日本の特徴です。正規・非正規の賃金を比較すると、2019年の時給ベースで、フルタイムで働く正社員は2,021円、非正規社員は1,337円であり、正社員の3分の2にとどまっています。別調査でみると、パート労働者の時給に対して一般労働者を100とした指数でみると、日本は59.4で、フランス85.6、ドイツ72.1、イギリス71.8などに比べると格差が大きくなっています。

非正規労働者が4割近くまで増加している中、正規雇用を望んでいる不本意非正規労働者への対応、正規と非正規の大きな処遇格差の是正が政策課題になっています。非正規雇用労働者が全て悪いということではありませんが、処遇格差に問題があります。雇用が不安定で、賃金の低い労働者が、社会保険に未加入のまま老後を迎えると、老後の年金を受け取れず、生活保護の対象になる可能性があるからです。

不本意非正規雇用者が多くなると国民年金だけで老後を過ごせません。お金のない人は生活保護をうけます。生活保護を受ける人が多くなると社会保障のコストが上がり、制度を維持できなくなります。また、非正規雇用のパート社員も社会保険で配偶者の扶養に入っている場合、社会保険料を自分では支払っていません。超高齢社会がこれからも進んで高齢者が増えると、社会保障を支える若い人が減って、ますます社会保障制度を維持できなくなります。

有期労働契約で働く人は4人に1人です。政府は2013年に有期労働契約に関するルールを変えました。有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めにない労働契約(無期労働契約)に転換できる制度「無期転換ルール」を導入しました。また最高裁判例として確立した「雇止め法理」の法定化をしました。そのうえで、有期契約と無期契約の労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けてはならないとしました。

助成金では、キャリアアップ助成金は助成金の中でも最も人気のある助成金です。非正規雇用の労働者(有期契約労働者、短時間労働者、派遣社員)の社内でのキャリアアップ等を促進するための取組に助成されます。正社員化コースでは、有期契約労働者の正規雇用労働者への転換または直接雇用で支給されます。

転換は3年以内で、転換前6か月と転換後6か月の賃金を3%以上増加させた場合には、中小企業なら1人当たり57万円支給されます。1年度1事業所の支給上限で20人までです。つまり、1事業所に20人の有期契約労働者がいて、全員を正社員にして賃金を3%上げたら、20人×57万円=1,140万円。1つの会社に10事業所があって同じように正社員転換したら1億・・・。そんなことはないと思いますが魅力のある助成金です。

皆さんが助成金を申請することで、非正規雇用の方が正社員になれるなら、従業員の方も嬉しいですね。